営業マンの「情熱」を上げるには?
ケーススタディ
営業部門のコンサルティングを行っていると、その営業組織が持つ「熱」を感じます。
普通に考えると、下記の方程式が考えられます。
売れている営業マンが多い=熱が高い
売れていない営業マンが多い=熱が低い
しかし、コンサルティングを行っていく中で、決してこの方程式が正しい訳ではないという事に気づきました。
それは、売れている営業マンが多いから熱が高いのではなく、熱が高いから売れていくという考え方が正しいという事です。
そして、営業組織の「熱の上げ方」というものが実際に存在するという事です。
今回は、営業組織の「熱の上げ方」をある事例を通して、解説致します。
■イントロダクション
A氏は、中四国本部長として、営業組織の変革を成功させる。当時、全国8地区の中で、最も苦戦していた中四国本部の営業成績を、V字回復させていく打ち手として、「語る営業」「全社No1カテゴリーの創出」を実践する。営業マンのモチベーションを向上させ、目標を達成する為に行ったリアルな現場の話の中から、組織変革を見てみよう。
■背景
A社は、戦後の1949年、財閥解体のあおりを受けて分割された2社のうちの1社である。分割のもう1社はB社である。B社は西日本、A社は東日本を担当する構図であった。歴史的な背景から、A社は、北海道や東京では、営業力を発揮し、シェアを獲得していたが、中四国では苦戦が続いていた。また、全国でシェアを伸ばしてきたC社は、中四国の主要都市である広島で特に高いシェアを維持していた。中四国本部は、営業マンの人数も他地域に比べて少なく、他社に比べて圧倒的不利な状況であった。
■課題形成力
A氏は、事業部門の再生や東海北陸本部長での活躍など、様々な分野で事業を成功させている。しかし、すべてのプロジェクトにおいて、同じ打ち手を行っている訳ではない。A氏は、「成長の阻害要因」が何か?を見極める事が重要だと語る。たくさんの問題がある中で、キーポイントとなる課題を見極める能力が必要となる。
当時、中四国本部の営業マンは萎縮していた。社内の評価でも、ダメだと言われ、他社の営業マンに比べても覇気がなかった。このマインドこそ課題のキーポイントであると考えたA氏は、営業マンに自信を持たせて燃える集団にする為の打ち手を構築する。
■打ち手の構築「全社No1カテゴリーの創出」
社員に自信を持たせるためにはどうすればよいか?A氏は「TOPになる」ことに拘った。「全社No1カテゴリーの創出」をするために何をすべきか?2つの視点から実際にTOPを実現する。
1つ目の視点は、必ずとも売上やシェアに拘らないことである。例えば、前年比伸び率No1、新規顧客獲得数No1などの指標を用いた。
2つ目の視点は、製品の絞り込みである。A氏は重点商品を2つに絞り込んだ。
商品Aは、知名度は無いが、とにかく拘った商品であり、「拘り」志向の強い顧客のニーズにマッチするという特徴を持っている。
また岡山で製造された商品Bに関しては、全国8地区の中でも中四国は勝ち組の成績を収めていた。
商品を絞り込むことによって、ターゲットが自ずと決まってくる。商品Aに関しては、拘り志向の強い顧客層に絞り込み、積極的な新規顧客開拓活動を行った。
A氏は、「TOPに拘る」事で社員に小さな成功体験を与える為に、もう一つのコンセプトを構築する。
■打ち手の構築「語る営業」
A氏のもう一つのコンセプトは、営業マンが自社の事を「熱く語る」である。仮に、知名度の高い商品の営業をするのであれば、営業マンが自社の製品を語らなくとも、お客様は製品の事を良く知っている。但し、商品Aの場合はそうはいかない。お客様が知らないのだから、とにかく熱く語る必要がある。それも、ただの製品説明ではなくストーリー性を持たして(A氏の実演は非常に面白かったです)熱意をもってお客様に語るのである。このコンセプトは、萎縮していた営業マンを燃える集団に変革するのに大きな役割を担ったに違いない。
■打ち手の効果
もちろん、打ち手が短期的にすぐに効果を発揮した訳ではないと考えられる。但し、営業マンで共有された分かりやすいコンセプトの元、小さな成功体験が生まれてくる。人は成功体験を経験するとまた勝ちたいと思うとA氏は語る。当時、「中四国の連中は最近元気だな!」などと、社内で噂になる事も多くあり、社員は小さな成功体験を元に、自分達で様々な工夫を生み出した。自分たちで工夫したことがまた新たな成功体験に結びつきと、打ち手の効果は相乗的に社員のモチベーションを向上させたと考えられる。
■マネジメント
打ち手の効果を初動させ継続させるには、上司のマネジメント能力が必要になる。A氏はマネジメントの本質は、「目線を同じにすること」と語る。上司とか部下なんてものは役割の違いであって、どちらが偉い偉くないの話ではない。上司の役割とは、部下が仕事をやりやすくする環境を作る事であり、課題を解決しやすくすることである。A社では全社的にこのようなマネジメントスタイルが浸透しているとの話であった。
■経営理念
打ち手を効果的に機能させるには、経営理念の浸透も重要である。A社の社員は99%自社商品が大好きですとA氏は語る。
仮に最高の打ち手を構築したとしても、社員がそれぞれ別のベクトルで動いていれば、組織としての大きなパワーを発揮することは難しい。A社にとって経営理念は、全社員が同じベクトルを向く為に重要なポイントとなる。
A社では、独自の人事評価システムがあり、業績とコンピテンシー(能力)で評価をする。1年に1回、個人目標を作成し、3か月ごとにチェック&アクションを行う。その個人目標を設定する場合、重点課題を5つ作成するのだが、その重点課題は必ず経営理念と照らし合わせて設定される。人事評価の中に、経営理念が浸透する仕組みが構築されている。
■最後に
営業組織を変革するにあたって、A氏は「情熱が大切である」と最後に語る。中四国本部のケースから導かれる変革のイメージを下図に記す。